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東京高等裁判所 昭和36年(行ナ)43号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

〔判決理由〕二、本件特許発明の公報によれば、本件特許発明の「特許請求の範囲」の項には「構造式

(ただし、X'およびX''は、臭素および塩素からなる群からのハロゲン原子である)なるジハロゲン化アニリンを、構造式がR−N=C=O(ただし、Rは、ハロゲン化芳香族炭化水素基である。なるイソシアネートと、不活性溶剤の存在下で、反応させることを特徴とする(ただし、X'およびX''は臭素および塩素からなる群からのハロゲン原子、Rは、ハロゲン化芳香族炭化水素基である)なるハロゲン化カーバニライドの製造方法」と記載されており、本件特許発明の要旨は右記載のとおりのものであると認められる。

本件特許発明の反応剤であるアニリンのハロゲン置換体は、右のとおり、ジハロゲン化アニリンと記載されており、その構造式におけるX'およびX''は、臭素および塩素からなる群からのハロゲン原子であるから、それ以外のハロゲン化アニリンを指すものではない。もつとも、(一)その「詳細なる説明」の項中、実施例Vの部分には3・4・5トリクロロアニリンを反応剤として用いる旨の記載がないわけではないが、これは、不適当な記載ないし誤記と解するほかはない。それは右特許請求の範囲の項の記載および右公報中本件特許発明の目的生成物質たるハロゲン化カーバニライドについての説明に、アニリンのフエニール基に三個以上のハロゲン原子のついたものの全くないことに徴しても明らかである。なお、右公報第一頁左欄に「Rは、任意のモノーまたはポリ――ハロゲン化芳香族炭化水素基でよい……同種または異種の三個以下のハロゲン置換分を含有するものが好ましい」との記載があるが、右公報の全記載に徴すれば、これは、本件特許発明の原料物質におけるイソシアネート基と結合するRについての説明であり、アニリンのハロゲン置換体についてのものでないことが明らかであるから、右摘示部分は、前示判断を左右するに足りるものでないことはいうまでもない。(二)また、右公報中、附記の項1には、「構造式が(ただし、X'およびX''は、臭素および塩素からなる群からのハロゲン原子である)なるジハロゲン化フエニルイソシアネートを、構造式がR-NH2(ただ、Rは、ハロゲン化ベンゼノイド炭化水素である)なるアミンと、不活性溶剤の存在下で、反応させることからなる構造式

(ただし、X'およびX''は、臭素および塩素からなる群からのハロゲン原子、Rは、ハロゲン化ベンゼノイド炭化水素基である)なるハロゲン化カーバニライドを製造する特許請求範囲記載の方法」が記載されている。しかしながら、アニリン自体が一級アミンであることは有機化学の常識であるとはいえ、本件特許発明の特許請求の範囲におけるハロゲン化アニリンは、一般有機化学でいうアミン中の特定なるアミンであるから、右附記1の方法におけるアミンは、同項の方法が本件特許発明の特許請求の範囲の「実施の態様」である以上、右ジハロゲン化アニリンを指しているものと解するほかはない。すなわち、この場合、これをR-NH2にと書き表わしたとしても、その内容は、ジハロゲン化アニリンを意味するにとどまると解するのが相当である。本件特許発明の要旨について、他に以上の判断をくつがえすに足りる資料はない。

三、原告は、特許庁における本件手続において、本件特許発明を、(一)「構造式(ただし、X'およびX''は、臭素および塩素からなる群からのハロゲン原子である)なるジハロゲン化アニリンを、構造式がR−N=C=O(ただし、Rは、ハロゲン化芳香族炭化水素基である)なるイソシアネートと、不活性溶剤の存在下で、反応させることを特徴とする(ただしX'およびX''は、臭素および塩素からなる群からのハロゲン原子、Rは、ハロゲン化芳香族炭化水素基である)なるハロゲン化カーパニライドの製造方法」(甲発明、前項認定の本件特許発明の要旨と同じ)と(二)「構造式(ただし、X'およびX''は、臭素および塩素からなる群のハロゲンである。)なるジハロゲン化フェニルイソシアネートを、構造式R−NH2(ただし、Rはハロゲン化芳香族炭化水基である。)なるアミンと、不活性溶剤の存在下で、反応させることを特徴とする構造式

(ただしX'、X''、Rは、前記と同じ)なるハロゲン化カーバニライドを製造する方法」(乙発明)とに分割する審判を請求し、その請求は成り立たない旨の本件審決を受け、本訴において、同審決の取消を求めるものであることは、当事者間に争いのない前示事実および<証拠>により、明らかである。

本件に適用のある旧特許法第五三条第二項および第五四条の規定によれば、特許権者は、錯誤により二以上の発明を一特許出願に包含させて出願し、これらについて合わせて特許を受けた場合に限り、その各発明ごとに各別の特許権とするための許可の審判を請求しうるが、他面、分割の結果、特許を受けた発明の特許請求の範囲を実質上拡張しまたは変更することは、許されないことが明らかである。したがつて、本件においては、右甲発明および乙発明のいずれもが前認定の本件特許請求の範囲を実質上拡張または変更するものであつてはならないわけである。しかるところ、甲発明が件本特許発明と同一の権利範囲のものであることは、きわめて明らかであるが、乙発明は、本件特許発明の特許請求の範囲を、少なくともつぎの点において実質上拡張するものである。すなわち、乙発明の反応物質である「構造式R-HN2(ただし、Rは、ハロゲン化芳香族炭化水素基である)なるアミン」は、前掲甲第二号証の二(乙発明の明細書)によれば、このほかに特段の限定があるものとは認められず、したがつて、前認定の本件特許発明の要旨におけるようにジハロゲン化アニリンに限定されるものでないことが明らかであるから(二の項参照)、本件分割の請求を許容することは、少なくとも、乙発明について、この反応剤の点において本件特許請求の範囲を実質上拡張することになるものであるといわなければならない。

四、右のとおりであるから、本件特許発明(甲発明)と乙発明とは、その目的生成物は同一であつてもその出発原料を異にし別方法であると認められるので、本件分割請求は旧特許法第五四条の規定に違反し許されないものとした本件審決には、原告主張のような違法はなく、その取消を求める原告の本訴請求は理由がない。(三宅正雄 荒木秀一 石沢健)

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